ウイルスと免疫とフコイダン

なるほど納得!フコイダン

Evidence 高分子もずくフコイダンエビデンス

総論 高分子もずくフコイダン研究~海産物のきむらや開発研究室の軌跡~

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生活習慣病予防・疾病リスク軽減に関する研究成果

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ウイルスと免疫とフコイダン

はじめに

新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、2020年12月時点での全世界の死者は150万人に達している状況です。職場の同僚との楽しい会食や、連休を利用した海外旅行など、これまで当たり前に出来ていた行動に制約が求められたり、逆にリモートワークやeコマースの活用等、これまで馴染みの薄かった働き方等の新しい生活様式を取り入れざるを得なくなったりと、これまでの当たり前の生活に多くの変化が起きました。

食生活においても同様で、家庭内での食事の機会が増えた分、毎日の食事の中で如何に免疫力を維持・向上させていくか、これまでより注目が集まっています。

当社が扱う「フコイダン」(もずく、昆布、ワカメ、ヒジキ等の褐藻類に含まれる多糖)も健康への効果を期待いただき、「免疫機能の向上につながるのか」「ウイルスを除菌する作用があると聞いたが本当か」等、日々問合せを受けています。

これらの質問に対して、残念ですが現時点では確証をもってお答えることは出来かねます。現在世界中で新型コロナウイルスのワクチンや治療薬が開発されつつありますが、それらには膨大な研究開発費と数千人単位の臨床試験での副作用の有無や効果の検証という途方もない時間と投資が伴います。フコイダンについてはそういった段階まで研究が進んでいないのが現状と言わざるを得ないからです。

しかし、フコイダンのウイルスや免疫への作用は小規模なヒト臨床試験や動物試験において優れた成果を上げている研究もいくつかあります。本稿では、現状のフコイダンの研究を信頼のおける論文より抽出し、現時点での研究の到達点を分かりやすくまとめる目的で制作しました。【詳細はこちら】をクリックするとより専門的な情報も閲覧できるようにしておりますので、より詳しく知りたい方はぜひそちらも併せてご覧ください。

本稿の構成

第1章では、フコイダンの免疫・ウイルスへの影響を説明する前に知っておきたい我々が持つ免疫系について概観します。本論に入る前段として免疫系を理解することで、2章以降に登場する免疫系とフコイダンの関係についての理解を深めていただくことを目的とします。

2章以降ではウイルスに対象を絞ります。ここではウイルスの特徴とその感染メカニズムも概観します。フコイダンのウイルスへの影響を理解するうえで、ウイルスの特徴や感染メカニズムを知ることは非常に重要になります。

3章では感染後の免疫反応である自然免疫とフコイダンの関係を、4章では獲得免疫とフコイダンの関係を説明します。最後に5章では免疫調節とフコイダンの関係をそれぞれまとめました。

フコイダンとウイルス感染の概要

報告されている効果 出典 掲載箇所
フコイダンが細胞表面に結合することでヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の細胞表面への吸着を阻害して、感染を防止する。 報告① 2章
2-3
フコイダンがデング熱ウイルス(DENV2)感染においてエンベロープに直接作用して阻害する。 報告② 2章
2-3
フコイダンの投与によってマクロファージの貪食作用が活性化され、NK細胞による感染細胞の破壊(細胞障害性免疫)が活性化される。 報告③ 3章
3-2
フコイダンは動物試験において、樹状細胞によるT細胞活性化効果とサイトカイン(IL-6、IL-12、TNF-α)の産生を促進する。 報告④ 3章
3-2
培養細胞の試験において、フコイダンが樹状細胞に発現するスカベンジャー受容体を介して未成熟なT細胞を活性化させてサイトカインの産生を促進する。 報告⑤ 3章
3-2
フコイダンは、季節性インフルエンザウイルス3種に対する抗体産生を増加させる。 報告⑥ 4章
4-2
フコイダンによりヘルペスウイルス(HSV)感染時のB細胞の細胞数と抗体産生量が増加した。 報告⑦ 4章
4-2
フコイダンがマウスのマクロファージの受容体と肝炎ウイルス(MHV)の結合を阻害することで、ウイルス感染後に免疫系がウイルス感染していない肝細胞まで過剰に攻撃することで生じる劇症肝炎を抑制し補体の活性化を阻害する。 報告⑧ 5章
5-3

1章 免疫系について

1-1免疫系の概要

図1-1 免疫系における自然免疫系と獲得免疫系

免疫系は、即時に応答をする「自然免疫系」と、感染した病原体を記憶する仕組みを持ち、次回それが侵入した際に強力かつ特異的な応答をする「獲得免疫系」の2種類に大別されます。

ヒトをはじめとした脊椎動物は、微生物や細菌、ウイルスなどの「病原体」の感染の脅威に常に晒されています。微生物由来の疾患ではマラリアやアメーバ赤痢、細菌由来では結核や破傷風が知られています。そしてウイルス由来の疾患では現在世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス(COVID-19ウイルス)やインフルエンザ等がよく知られています。

これらを体内から除去するため、生物は「免疫系」という生体防御機能を、その進化の過程で獲得・発達させてきました。

それでは、ここからはその免疫系について少し詳しくご説明します。

免疫系は、病原体が体内に侵入したことを感知すると即時に病原体のもとへ行き、捕食したり、破壊して病原体を撃退する「自然免疫系」と、感染した病原体の特徴を記憶しておき、次回侵入時にその病原体に応じて、「自然免疫系」よりも特異的で強力な方法で撃退する「獲得免疫系」の2種類に大別されます。この2つの仕組みが協調しながら病原体を除去します(図1-1)。

免疫系は、生命を守るための大切な仕組みですが、制御ができなくなったり、過剰に反応したりした結果、自らを攻撃してしまい生命を脅かす、アナフィラキシーショックやアトピーや乾癬のような自己免疫疾患の要因にもなっています。

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1-2自然免疫系について

私達、ヒトを含む脊椎動物がもっている免疫系は、様々な種類の細胞とタンパク質が関与して驚くべき精巧な防御機構を構成しています。

まずは、「自然免疫系」の仕組みを詳しく見ていきます。自然免疫系は、生体内に侵入した病原体に素早く応答する仕組みです。病原体が体内に侵入すると、侵入された箇所の細胞が病原体を認識し、サイトカインと呼ばれるたんぱく質を分泌します。この情報によって炎症が起こります。すると、炎症を感知した自然免疫系にかかわる細胞(白血球)が集まってきます。

次に、白血球の一種である好中球とマクロファージが炎症部位に集まり、病原体を食べる(貪食)ことで病原体を除去します。さらに血液中の一連のタンパク質(補体)が、侵入してきた微生物の細胞膜を破壊します。病原体がウイルスの場合、白血球の一種・NK細胞がウイルスに感染した細胞を認識し、破壊します。さらに、樹状細胞が、マクロファージと同じく病原体を食べ(貪食)、その病原体の情報を後述の獲得免疫系へ伝えるという重要な役目を担います。(表1-1参照)。

1-3獲得免疫系について

一方、獲得免疫系は、白血球の一種である「B細胞」と「T細胞」が担います。T細胞のうち、「細胞障害性T細胞」は、「樹状細胞」より標的の情報を受け取ったのち、病原体に感染した細胞を破壊します。B細胞は、「抗体」を合成し、血液や体液に放出し、体中に武器を輸送するいわば飛び道具です。抗体は、病原体の表面に結合し、病原体の働きを抑えたり、貪食細胞による貪食を助けたり、自然免疫系で述べた「補体」系を活性化したりします(表1-1参照)。

別のタイプのT細胞である、「ヘルパーT細胞」は、「B細胞」や「細胞障害性T細胞」、「マクロファージ」などの細胞を活性化することを手助けします。

B細胞とT細胞は、ともに過去の感染を記憶し、同じ病原体に対して、特異的に、強力に応答することができるようになる仕組みを持っています。この仕組みを利用した医療が、予防接種です。

表1-1 免疫系のはたらき
自然免疫系と獲得免疫系ではたらく主な細胞とタンパク質
免疫系 名前 白血球(細胞)・タンパク質 はたらき
自然免疫系 補体 タンパク質 微生物の細胞膜を破壊
好中球 白血球(細胞) 微生物を貪食
マクロファージ
NK細胞 ウイルス感染細胞を破壊
樹状細胞 病原体を貪食
病原体の情報を T 細胞へ伝達
獲得免疫系 B細胞 白血球(細胞) 抗体の合成・分泌
細胞障害性T細胞 ウイルス・細菌・寄生虫の細胞を破壊
ヘルパーT細胞 B細胞・細胞障害性 T 細胞・マクロファージなどの細胞を活性化

免疫系は、生物が生きるために必要な仕組みですが、このしくみが原因となる疾病も知られています。痛風による関節炎では、尿酸結晶に対し免疫系が働き、炎症反応が起こることで強い痛みの原因となります。ウイルス性肝炎においても、ウイルスに感染した肝臓の細胞を除去しようと炎症が起こり、周囲の細胞も傷つけてしまうことで肝機能の障害が起こります。

COVID-19も免疫系の過剰な活性化が肺の細胞を傷つけていることがわかってきています。イギリスのオックスフォード大学の研究チームではこの免疫異常が引き起こす呼吸器不全の症状に対し、ステロイド系抗炎症剤・デキサメタゾンが有効だったとする報告を行いました2)。その他、免疫を抑制する薬剤(トシリズマブ、副腎皮質ホルモン、ヒドロキシクロロキン)の有効性が検討されています3)

(引用文献)

  • 1) Molecular Biology of the cell 6th edition chapter 24, 1298-1307
  • 2) Oxford University News Release. Low-cost dexamethasone reduces death by up to one third in hospitalised patients with severe respiratory complications of COVID-19. Jun 16, 2020.
  • 3) Hu B, Huang S, Yin L. The cytokine storm and COVID-19.J Med Virol. 2020 Jun 27

2章 ウイルスの特徴と感染メカニズムにおけるフコイダンの効果

2-1 ウイルスの構造と特徴の概要

前章では免疫系の仕組みを概観しましたが、本章では、いよいよウイルスの構造と感染するまでのメカニズムを知ると同時に現状でのフコイダンの効果についてもみていきたいと思います。

ウイルスは、基本的な構造として、中心に核酸(DNAもしくはRNA)を持ち、タンパク質の殻であるカプシドに覆われています。さらに外側に、エンベロープと呼ばれる膜を持つものも知られています。ウイルスの構造は、感染力や突然変異の起こりやすさ等、ウイルス自身の特徴に影響を与えます。

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2-2 ウイルスの特徴について1)

ウイルスは構造によって異なる特徴を持ちます。カプシドというタンパク質の殻の中にDNAかRNAのどちらかの核酸を持ちます。インフルエンザウイルスやコロナウイルス、エイズウイルス(HIV)はカプシドの外側に更にエンベロープという生体膜をまとっています。一方で、ポリオウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスはこのエンベロープを持っていません(図2-1)。

図2-1 ウイルスの特徴と構造

左から、カプシドのみでエンベロープを持たないRNAウイルス、カプシドのみでエンベロープを持たないDNAウイルス、カプシドとエンベロープを持つRNAウイルス、カプシドとエンベロープを持つDNAウイルスを示します。

赤曲線はRNAを、黒曲線はDNAをそれぞれ示します。カプシドは六角形、エンベロープは円で示します。ウイルスから突き出た異なる形のY字状のものは細胞に結合するためのスパイクを示します。

一般的にエンベロープを持っているウイルスはカプシドのみのウイルスよりも容易に感染力を失うといわれています。この理由はエンベロープを構成する脂質がエタノールや有機溶媒、石けんによって破壊されるためです(図2-2)。さらに、DNAウイルスとRNAウイルスを比較すると、DNAウイルスは増殖の過程で生じたDNA複製のミスを修正する仕組みを持つのでRNAウイルスよりも遺伝子の変異が少ないと言われています。そのため長期にわたって同じワクチンが効力を持つ場合が多いようです。

図2-2 ウイルスの構造と感染

エンベロープを持つウイルスは、エタノールや有機溶媒、界面活性剤によって構成する脂質を破壊され感染力を失います。

新型コロナウイルス(COVID-19)を例にすると、カプシドの周りに特徴的なスパイクがついたエンベロープを持ち、カプシドの中にRNAのゲノムを有しています。これらの特徴から考えると、消毒や手洗い等で容易に感染力が失われる一方で、増殖の過程でRNAが変異する可能性が高く、ワクチンが効かないように変異したウイルスが出現し易いので、ワクチン等での根絶が容易ではないと言えそうです(図2-3)。

図2-3 ウイルスの構造と突然変異

RNAウイルスはDNAウイルスよりも複製のミスを修復できないため、突然変異が蓄積し性質が変わりやすいといわれています。

2-3ウイルスが感染するまでのフコイダンの作用

ウイルスが細胞へ感染するまでにはいくつかのパターンがあります。エンベロープを持つRNAウイルスの場合を一例として説明します。

COVID-19と同様にエンベロープを持つRNAウイルスは細胞表面の受容体と結合してエンドサイトーシス(細胞膜を通過できない物質を細胞が細胞内に取り込む作用)によって宿主の細胞内に取り込まれた後、細胞膜に融合してカプシドを開放し、RNAを細胞に放出します。このCOVID-19と同じ特徴を持つウイルスの感染におけるフコイダンの作用については2件の有用な報告がありますので、以下に紹介します(図2-4)。

報告①2):フコイダンが細胞表面に結合することでヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の細胞表面への吸着を阻害して、感染を防止することが報告されています2)

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2-3-1 報告①:フコイダンによるパラインフルエンザウイルスの感染阻害効果

フコイダンとフコイダンの主な構成要素であるL-フコースについてヒトパラインフルエンザウイルス2型(hPIV-2)に対するLLCMK2細胞での増殖効果を研究しました。

血球吸着テストでは、フコイダンが細胞融合と血球吸着を阻害するが、L-フコースはどちらも部分的にしか阻害しないことが分かりました。ウイルスRNAがフコイダン入りで培養したhPIV感染細胞で検出されませんでした。しかし、L-フコースはウイルスRNAの合成を阻害しませんでした。hPIV2へのGFP発現による蛍光観察では、ウイルスのタンパク質合成がフコイダンで阻害されるが、L-フコースではされないことが示され、さらに、ウイルスの侵入がフコイダンでは阻害されるが、L-フコースではされないことが確認されました。

これらの結果より、フコイダンは細胞表面に結合することによる細胞表面へのウイルスの侵入を阻害し感染を妨げることが示唆されました。さらに硫酸化多糖であることがフコイダンによる阻害にとって重要であることが示されました。

報告②3):フコイダンがデング熱ウイルス(DENV2)感染においてエンベロープに直接作用して阻害することが報告されています3)

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2-3-2 報告②:フコイダンによるデング熱ウイルスの感染阻害効果

海藻の一種であるオキナワモズク由来の硫酸化多糖、フコイダンはグルクロン酸と硫酸化フコースを含む炭水化物の繰り返しから構成されています。ここで著者らはこの化合物が潜在的にデング熱ウイルス2型(DEN2)感染を阻害することを発見しました。ウイルス感染は、他の型ではなくDEN2がフコイダンで前処理されたときに阻害されました。グルクロン酸をグルコースに還元したフコイダン誘導体はウイルス感染を阻害しませんでした。脱硫酸化フコイダンはDEN2感染の阻害活性がかなり減衰しました。フコイダンにだけ結合したDEN2粒子は、フコイダンが直接的にエンベロープの糖タンパク質(EGP)と相互作用することを示しています。分子構造からの解析では、DEN2のEGPの233番目のアルギニンが推定上のヘパリン結合部位のひとつである310番目のリシンと立体構造的に近位であること、310番目のリシンはフコイダンとの相互作用で最も重要であること、が示唆されています。結論としては、フコイダンの硫酸基とグルクロン酸の両方がDEN2感染の阻害に対しての重要であることの証拠となるでしょう。

  実験の内容 フコイダンの種類 結果 予想される効果・メカニズム
【報告①】2)
ヒトパラインフルエンザウイルス(hPIV)の感染防止効果
血球吸着テスト(LLCMK2細胞へのhPIV-2感染テスト)、蛍光観察 オキナワモズク フコイダン、L-フコースは正常細胞には影響なく、フコイダンは感染細胞でのhPIV-2のRNA合成を阻害し、L-フコースは阻害しなかった。 フコイダンがhPIV-2の細胞への侵入を阻害した。
【報告②】3)
デング熱ウイルス(DENV2)感染の阻害効果
ウイルス感染の阻害評価 オキナワモズク フコイダン、脱硫酸化フコイダン、グルクロン酸還元フコイダン、ポリフコースでは、フコイダンが濃度依存的に最も阻害した。デング熱ウイルスの4つの型でフコイダンによる効果を比較したところDEN2がIC50 (半数致死量)が最も低くなった。 フコイダンがDEN2の感染を最も阻害した。
固相ウイルス結合アッセイ フコイダン、脱硫酸化フコイダン、グルクロン酸還元フコイダン、ポリフコースでは、フコイダンのみで反応が見られた。 フコイダンだけがDEN2と相互作用した。
ウイルスのタンパク質構造予測 デング熱ウイルスの4つの型でアミノ酸配列から構造を予測しドメインⅢのアミノ酸の位置と距離がフコイダンの感受性に関与することが示唆された。 感染阻害におけるフコイダンとDEN2との相互作用部位が予測された。

図2-4 フコイダンによるウイルスの感染阻害

(左側)フコイダンがパラインフルエンザウイルス(hPIV)と細胞とのスパイクに結合している状態を示します。(右側)フコイダンがデング熱ウイルス(DENV2)のエンベロープに作用している状態を示します。

(引用文献)

  • 1) Molecular Biology of the cell 6th edition chapter 23, 1280,1287
  • 2) Biomed Res. 2008 Dec;29(6):331-4.
  • 3) BBRC 376(1):91-5 2008

3章 ウイルス感染で生じる自然免疫の反応におけるフコイダンの効果

3-1 ウイルス感染と自然免疫系

図3-1 ウイルスの侵入から細胞への感染まで

オレンジ色の円はウイルス、灰色は粘液(ムチン)、四角は細胞を示します。右の細胞から順に、細胞に付着したウイルスが細胞内に取り込まれるまでの動きを示します。粘液(ムチン)により体外からのウイルスの侵入が物理的に阻害されます。

前章ではウイルスの特徴や感染するまでのメカニズムに関連したフコイダンの効果を2件の報告を通じて述べました。本章では生体内にウイルスが侵入して免疫反応が起こる過程においてフコイダンがどのような効果を及ぼすのかを報告します。

図3-1は、ウイルスがどのように体内に侵入するかを表したものです。ウイルスはヒトの体内でまず粘液に含まれるムチンという粘性の高い物質の働きによって細胞への侵入が物理的に阻害されます。粘液を通り抜けたウイルスは細胞に付着し、ウイルスが細胞内で増殖します。細胞内で増殖したウイルスは次に細胞外へ放出されます。その連鎖反応で生体内で感染が拡大していきます(図3-2)。

図3-2 感染

①細胞とウイルスのスパイクの結合。②細胞の食作用によるウイルスの侵入。
③ウイルスが細胞の核内に侵入。④ウイルスが細胞内で増殖。
⑤ウイルスが細胞外へ放出。

細胞にウイルスが付着すると、自然免疫系の仕組みがはたらきます。この自然免疫系のしくみは、ウイルスの複製を阻害することと、感染した細胞の破壊を引き起こして、獲得免疫系が応答するまでの時間を稼ぐ役割を担っています(図3-3)。

3-2 フコイダンによる自然免疫系の活性化効果

自然免疫系のしくみを具体的に見てみましょう。ウイルスに感染した細胞はウイルスなどに反応するサイトカインの一種であるインターフェロンを産生して細胞の外に分泌します(図3-3)。分泌されたインターフェロンは他の細胞におけるウイルスの複製を阻害します。さらにインターフェロンはナチュラルキラー(NK)細胞を活性化させます。活性化されたNK細胞は、細胞の表面タンパク質を認識して細胞がウイルスに感染しているかどうかを判断し、感染した細胞に自殺(アポトーシス)を起こさせることで破壊します。マクロファージはウイルスを食作用で分解しウイルスの情報を取り出します(図3-4)。

図3-3 インターフェロンを介した自然免疫系

①感染細胞が周囲にインターフェロンを分泌。緑色の三角はインターフェロンを示します。②インターフェロンがNK細胞を活性化。二重線の四角はNK細胞を示します。③活性化NK細胞による感染細胞のアポトーシス(自殺誘導)。④インターフェロンによる細胞のウイルス感染耐性。

インターフェロンとNK細胞とでウイルスの感染が全身に拡大することを遅らせている間に、破壊したウイルスの情報が樹状細胞に集められます。集められたウイルスの情報は樹状細胞によりリンパ器官に伝えられて、リンパ器官の中でウイルスに特異的な受容体を持つT細胞を活性化させて、獲得免疫系の応答を促進します(図3-4)。このように、樹状細胞は自然免疫系の細胞ですが、情報を獲得免疫系へ橋渡しをする機能も持っています。

図3-4 マクロファージを介した自然免疫系

ウイルスはマクロファージによる食作用でウイルスのかけらに分解されます。ウイルスのかけらは樹状細胞によって取り込まれます。樹状細胞はウイルスのかけらから得た情報をT細胞に伝達します。

フコイダンはこの自然免疫系のしくみで働く細胞の一種・マクロファージとNK細胞の活性化2)、樹状細胞の活性化3)4)、に関与することが報告されています(図3-5)。それぞれのはたらきの詳細については以下の表の通りです。

報告③:ヘルペスウイルス(HSV)感染1週間前にフコイダンを投与することで病変が軽症になり、回復までの期間が治療薬であるアシクロビル(ACV)投与の場合と同程度になること、フコイダンの投与によってマクロファージの貪食作用が活性化され、NK細胞による感染細胞の破壊(細胞障害性免疫)が活性化されたことが報告されています2)

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3-3-1 フコイダンによるマクロファージとNK細胞の活性化2)

【報告③】2)

食用褐藻であるワカメから単離された硫酸化多糖類のフコイダンは、ヘルペスウイルス(HSV-1)の潜在的な阻害剤であることが以前のin vitroの実験で示されていました。HSV-1はヘルペスウイルスの一種で、免疫不全の宿主において、軽度の粘膜潰瘍から重症に至るまでの感染症を引き起こします。in vivoでは、HSV-1の複製は自然免疫系と獲得免疫系の両方で調節された免疫応答の下で制御されます。

本研究では、フコイダンのin vivoにおけるウイルス複製および宿主の免疫防御系に対する効果を調べました。生存率と病変スコアから判断すると、HSV-1感染1週間前にフコイダンを投与することで病変が軽症になり、回復までの期間は治療薬であるアシクロビル(ACV)投与の場合と同程度になることが分かり、フコイダンの経口投与がHSV-1の感染からマウスを保護することが確認されました。in vitroでのマクロファージの貪食作用活性およびB細胞幼若化の実験では、水と比較してフコイダンで4.3倍、LPSで5.2倍貪食作用が活性化されました。これらの結果よりフコイダンによって有意に刺激されることが確認されましたが、マクロファージの活性化を測る一酸化窒素の産生量測定では有意な変化が観察されませんでした。in vivoでの研究において、フコイダンの経口投与は、5-フルオロウラシル処理で免疫抑制されたHSV-1感染マウスにおいて、NK活性の有意な増加をもたらしました。HSV-1感染マウスのNK活性を含む細胞障害性免疫の活性は、フコイダンの経口投与によって有意な増加がみられました。HSV-1接種マウスでの中和抗体の産生は、水と比較してフコイダンで2、3週後の抗体力価が有意に増加されました。

これらの結果は、フコイダンの経口摂取が、ウイルス複製の直接阻害および自然免疫と獲得免疫の防御機能の両方の刺激を通じて保護効果を発揮する可能性があることを示唆しました。

報告④:フコイダンは動物試験において、樹状細胞によるT細胞活性化効果とサイトカイン(IL-6、IL-12、TNF-α)の産生を促進することが報告されています3)

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3-3-2 フコイダンによる樹状細胞の活性化3,4)

【報告④】3)

海由来の硫酸化多糖類は、特定の抗ウイルス、抗腫瘍、抗炎症および抗凝固活性を有することが示されています。しかしin vivoでの免疫調節効果についてはあまり研究されていませんでした。今回の研究では、in vitroおよびin vivoでのマウス樹状細胞(DC)の成熟に対する、アスコフィラン ノドッサムから精製された硫酸化多糖の効果を評価しました。フコイダンは骨髄由来DC(BMDC)の活性化と炎症誘発性サイトカインの産生を誘導しました。さらにin vivoで投与した場合は、CD40、CD80、CD86、MHCクラスIおよびMHCクラスIIの応答の増大、ならびに脾臓DCにおけるIL-6、IL-12およびTNF-αの産生を促進しました。興味深いことに、アスコフィラン ノドッサムは、DC成熟を促進するための明確な効果を持つブラダーラック由来のフコイダンよりも高度な共刺激分子の応答の増大と炎症誘発性サイトカインの産生を誘導しました。アスコフィラン ノドッサムはDCの存在下でIL-12依存的にIFN-γ産生と、Th1およびTc1細胞の生成を促進しました。またアスコフィラン ノドッサムは骨髄分化一次応答88(MyD88)シグナル伝達経路を介してDC成熟を誘発されていました。これらの結果より、アスコフィラン ノドッサム由来のフコイダンはDC成熟を誘導により、in vivoでTh1およびTc1応答を増強することを示しています。今回の研究結果は、感染症や癌と闘うための新しい治療戦略の開発を促進する可能性があります。

報告⑤:培養細胞の試験において、フコイダンが樹状細胞に発現するスカベンジャー受容体を介して未成熟なT細胞を活性化させてサイトカインの産生を促進することが報告されています4)

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3-3-2 フコイダンによる樹状細胞の活性化3,4)

【報告⑤】4)

樹状細胞(DC)は、未成熟なT細胞にとって最も強力な抗原提示細胞です。今回の研究では、スカベンジャー受容体(SR-A)が、末梢血DC(PBDC)および単球由来DC(MDDC)によって発現されることが示されました。さらに、これらの細胞への抗SR-A抗体の結合は、SR-Aアゴニストであるフコイダンの存在下では低下しました。これらのDCをフコイダンまたは抗SR-A抗体で処理すると、PBDCの特定の細胞群における共刺激分子CD83および主要組織適合遺伝子複合体クラスIIの表面発現が著しく増加しました。さらに、フコイダンで処理されたPBDCは、TNF-αを産生しましたが、IL-12p70は産生しませんでした。さらに、フコイダンによる成熟は、TNF-α中和抗体による前処理によって排除されました。最後に、インターフェロン分泌とT細胞の増殖は、T細胞とフコイダンによって成熟化されたPBDCの共培養によって増強されました。p38 MAPKおよびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3の特異的阻害剤は、フコイダン処理されたPBDCのTNF-α産生および成熟を抑制しました。さらに、SR-Aを欠損したMDDCは、フコイダンの存在下でCD83発現、TNF-α産生、およびp38MAPKとグリコーゲンシンターゼキナーゼ3のリン酸化により応答を増大できませんでした。まとめるとこれらの結果は、SR-Aの結合がTNF-αの誘導をもたらし、それがPBDCの成熟を誘導し、それによってT細胞の増強が引き起こされることを示唆しています。

  実験の内容 フコイダンの種類 結果 予想される効果・メカニズム
【報告③】2)
マクロファージとNK細胞の活性化
貪食作用アッセイ ワカメ 水と比較して、フコイダンで4.3倍、LPSで5.2倍貪食作用が活性化された。 マクロファージの活性化
B細胞の幼弱化(特定の抗原に会った場合に形態的に未成熟な形をとって増殖すること) フコイダンはB細胞の幼弱化に顕著な刺激を与えた。 B細胞の増殖促進
細胞障害性免疫細胞アッセイ 有意な増加 細胞障害性免疫の活性化
NK細胞アッセイ 有意な増加 NK細胞の活性化
抗HSV中和抗体アッセイ 水と比較して、フコイダンで2、3週後の抗体力価が有意に増加した。 抗HSV抗体の産生促進
【報告④】3)
樹状細胞の活性化
顕微鏡観察、フローサイトメトリー、デキストラン摂取解析、CD86 とMHCクラスⅡ発現量測定 アスコフィラン ノドッサム、ブラダーラック(ヒバマタ属) PBSと比較して、フコイダンで骨髄由来樹状細胞(BMDC)が濃度依存的に活性化した。 BMDCの活性化
フローサイトメトリー、リアルタイムPCR、ELISAアッセイ PBSと比較して、フコイダンで炎症誘発性サイトカイン(IL-6、IL-12p70、TNF-α)の産生が有意に増加した。 炎症反応の誘導
フローサイトメトリー、ELISAアッセイ、リアルタイムPCR、in situ アポトーシス測定 PBS、ブラダーラックのフコイダンと比較して、アスコフィラン ノドッサムのフコイダンでIFN-γの産生が促進されアポトーシスが誘導された。 T細胞によるIFN-γの産生の促進
フローサイトメトリー アスコフィラン ノドッサムのフコイダンではMyD88シグナル経路を介して炎症反応を誘導した。 MyD88シグナル経路を介した炎症反応の誘導
【報告⑤】4)
T細胞の活性化
フローサイトメトリー ヒバマタ、ブラダーラック(ヒバマタ属) 血中樹状細胞でのスカベンジャー受容体(SR-A)の発現とフコイダンによる抗SR-A抗体結合の阻害、フコイダンによる末梢血樹状細胞の成熟化 フコイダンによる樹状細胞の成熟化
ELISAアッセイ 末梢血樹状細胞にフコイダンを作用するとTNF-αの産生が増加した。樹状細胞に抗TNF-α抗体を作用させてフコイダンを投与すると成熟化が阻害された。 TNF-αがフコイダンで誘導された血中DCの成熟化を調節した。
ウェスタンブロット、フローサイトメトリー 様々なリン酸化阻害剤により末梢血樹状細胞のサイトカイン産生能が阻害された。未成熟単球由来樹状細胞の成熟化がフコイダンと様々なリン酸化阻害剤の同時作用で阻害された。フコイダンで成熟化した末梢血樹状細胞とCD4+T細胞の共培養でCD4+T細胞の活性化とIL-12p70の産生が増加された。 フコイダンが未成熟な樹状細胞を様々なリン酸化をすることで成熟化し、T細胞を活性化させる。

図3-5 フコイダンによる自然免疫系の活性化

フコイダンは、樹状細胞・マクロファージ・NK細胞を活性化させます。

(引用文献)

  • 1) Molecular Biology of the cell 6th edition chapter 24, 1298-1307
  • 2) Int Immunopharmacol. 2008 Jan;8(1):109-16
  • 3) Mar Drugs. 2014 Jul 14;12(7):4148-64. doi: 10.3390/md12074148.
  • 4) BLOOD 2009 JUN;23(113):5839-5847

4章 ウイルス感染で生じる獲得免疫の反応におけるフコイダンの効果

4-1 ウイルス感染と獲得免疫系

3章では自然免疫の反応におけるフコイダンの効果について3件の報告を行いました。この章では、免疫系のもう一つの仕組みである獲得免疫系において、どのようにウイルスが認識され、排除されるか、また獲得免疫系の働きにおけるフコイダンの効果について報告を紹介します。

獲得免疫系で働く主な免疫細胞は、抗体を作り出すB細胞と、ウイルスに感染した細胞を除去するはたらきなどをもつT細胞です。

B細胞とT細胞は、そのままではあらゆる物質に反応してしまい、自らが放出する抗体等の物質にも反応してしまうため、胸腺あるいは骨髄などにおいて受容体を変更するか(B細胞の場合)、削除されるか、不活性化されます。これらを自己免疫寛容といい、獲得免疫系が自己を攻撃しないようにしています。

B細胞はウイルスの一部分を抗原とした特定の結合部位を持ち、細胞の受容体との結合を阻害する抗体である免疫グロブリンを大量に分泌します。ウイルスを抗原とする場合、ウイルスの核酸、カプシド、エンベロープ、またはその一部をもとにして抗体が作られます。そのため抗体は抗原の種類に応じて異なる特徴を持ち、全身のウイルスとその毒素を排除します。いくつかのB細胞は記憶細胞に分化して次からの免疫応答をより効率的にします(図4-1)。

図4-1 獲得免疫系 B細胞

青色Y字は抗体(免疫グロブリン)を示します。ウイルスに抗体が結合することで細胞への感染を阻害します。

対照的にT細胞は機能によって3種類に分類されます(図4-2)。ウイルスに対する最初の獲得免疫応答では、ウイルスの一部を抗原として反応するリンパ球が増殖し、次回以降に同じウイルスが入ってきた場合に免疫応答するリンパ球が増えるようになります。また二次応答以降では、いくつかのリンパ球が記憶細胞に変わり、次に同じウイルスが侵入したときにより早くより効率的に反応するようになります。これらを免疫記憶といいます。

図4-2 獲得免疫系 T細胞

細胞障害性T細胞は感染した細胞にアポトーシス(自殺誘導)を起こさせます。ヘルパーT細胞は細胞障害性T細胞、マクロファージ、抗体産生細胞などの免疫細胞を活性化させます。制御性T細胞はTGF-βやIL-10などのサイトカインを分泌することで免疫細胞の働きを阻害し、免疫の働きを制御します。

4-2 フコイダンによる獲得免疫系における抗体産生の増加効果

報告⑥:フコイダンの経口摂取による、高齢者におけるインフルエンザワクチン接種後の抗体産生への影響を調査しました。フコイダン群はプラセボ群よりも高い抗体価を示しました。これにより、フコイダンは、季節性インフルエンザウイルス3種に対する抗体産生を増加させることが報告されています2)

詳細はこちら

4-3-1 フコイダンによるインフルエンザウイルスに対する抗体産生の増加作用2)

【報告⑥】2)

高齢者はインフルエンザワクチンに対する免疫反応が不十分であることが知られています。海藻から抽出された硫酸化多糖類であるメカブフコイダン(MF)は、免疫調節効果があることが以前に示されていました。そこで、著者らは経口MF摂取の有無による、高齢の日本人男女におけるインフルエンザワクチン接種後の抗体産生を調査しました。60歳以上の70人を対象に、二重盲検無作為化プラセボ対照試験を実施しました。被験者は2つの群のどちらかにランダムに割り当てられ、MF(300 ㎎/日)またはプラセボを4週間摂取し、その後3種の季節性インフルエンザワクチンを接種しました。血球凝集阻害力価およびナチュラルキラー(NK)細胞活性を測定するために、ワクチン接種の5週間後および20週間後に血清を採取しました。 MF群は、プラセボ群よりも季節性インフルエンザウイルスワクチンに含まれる3つの株すべてに対して高い抗体価を示しました。MF群では、NK細胞の活動は、MF摂取後9週間でベースラインから増加する傾向がありました(P = 0.08)。しかし、プラセボ群では、9週間で実質的な増加は認められず、NK細胞活性は9週間から24週間で大幅に減少しました。これらの結果から免疫の弱まった高齢者では、MFの摂取によりワクチン接種後の抗体産生が増加し、インフルエンザの流行を防ぐ可能性があります。

報告⑦:フコイダンのウイルス複製と宿主の免疫防御系への影響を調べました。試験管試験では、マクロファージの食作用活性とB細胞の成熟はフコイダンによって著しく刺激されました。また、フコイダンの経口投与により、免疫抑制されたHSV感染マウスのNK活性、細胞障害性T細胞活性および中和抗体の産生は著しく促進されました。これにより、フコイダンによりヘルペスウイルス(HSV)感染時のB細胞の細胞数と抗体産生量が増加したことが報告されています3) (図4-3)。

詳細はこちら

4-3-2 フコイダンによるヘルペスウイルスに対する抗体産生の増加作用3)

【報告⑦】3)
【報告③】と同じ文献のため省略

図4-3 フコイダンのよる獲得免疫系 B細胞の活性化

フコイダンは抗体産生細胞に作用することで抗体産生を活性化させます。

  実験の内容 フコイダンの種類 結果 予想される効果・メカニズム
【報告⑥】2)
インフルエンザウイルスに対する抗体産生の増加効果
抗体力価測定 メカブ インフルエンザB型の抗体力価の統計的に有意な増加 インフルエンザワクチンの効果の増加
NK細胞活性測定 NK細胞活性の統計的に有意な増加 インフルエンザウイルスに対する免疫反応の増加
【報告⑦】3)
ヘルペスウイルス(HSV)感染時のB細胞の細胞数と抗体産生量の増加効果
貪食作用アッセイ メカブ 水と比較して、フコイダンで4.3倍、LPSで5.2倍貪食作用が活性化された。 マクロファージの活性化
B細胞の幼弱化(特定の抗原に会った場合に形態的に未成熟な形をとって増殖すること) フコイダンはB細胞の幼弱化に顕著な刺激を与えた。 B細胞の増殖促進
細胞障害性免疫細胞アッセイ 有意な増加 細胞障害性免疫の活性化
NK細胞アッセイ 有意な増加 NK細胞の活性化
抗HSV中和抗体アッセイ 水と比較して、フコイダンで2、3週後の抗体力価が有意に増加 抗HSV抗体の産生促進

(引用文献)

  • 1) Molecular Biology of the cell 6th edition chapter 24, 1315,1323-24,1339
  • 2) J Nutr. 2013 Nov;143(11):1794-8. doi: 10.3945/jn.113.179036. Epub 2013 Sep 4.
  • 3) Int Immunopharmacol. 2008 Jan;8(1):109-16

5章 ウイルス感染で生じる免疫反応とフコイダンの免疫調整機能

5-1 ウイルス感染と免疫調節

ウイルスに感染し、生体内で増殖しても、免疫系の働きによって通常は抑え込むことができ、その際に特段の症状が出ないようになっています。しかし、感染したウイルスの種類や体調によっては免疫系に不具合を引き起こし、免疫系の異常な促進や抑制によって様々な症状が生じてしまう場合があります。

5-2 免疫の疾患(不全から暴走まで)と免疫調節について

生体内でどのように感染したウイルスが増殖するかについては、ウイルスの種類とヒトの免疫系がどのような応答(反応)をするかで決まります(図5-1)。極端な場合、免疫系が全く働かなければウイルスが全身もしくは重要な器官に感染して死に至り(免疫不全症)、免疫系が正常に働けばウイルスは即座に体外に排除されて、感染による全身症状が出る前に完治します(無症状感染)。

図5-1 免疫の疾患(不全から暴走まで)

免疫が正常に働いていない状態を免疫不全症(免疫系の異常抑制)として図の左に、免疫が過剰に働いている状態を自己免疫疾患(免疫系の異常促進)として図の右に、中間の免疫系の状態を無症状感染(正常な免疫系)として図の中央に示しています。免疫不全症では免疫系が弱まり常在細菌や常在ウイルスにも感染する日和見感染が生じ、逆に自己免疫疾患では免疫系の働きが強すぎB細胞やT細胞などの免疫細胞が正常な細胞を攻撃してしまう炎症の過剰誘導(サイトカインストーム)を示します。

しかしながらヘルペスウイルスのように、通常ではほとんど病気を起こさないウイルスが体内に残り(潜在し)、不調になったときだけ症状を示す日和見感染を引き起こす場合があります。同様に、腸内や皮膚に常在する細菌やウイルスが体内に侵入・感染しないように免疫系は常に働いていますが、体調不良や異物の侵入によって免疫系の一部が適切に働かない(免疫が弱まった)状態になると、外部からのウイルスなどの異物だけでなく、常在する細菌やウイルスも体内への侵入・感染を始めます(図5-2)。このような、免疫が弱まった状態を普段の状態まで一時的に引き上げる作用が「免疫調節作用」といいます。

図5-2 免疫調節効果

(左図)免疫が正常な状態では、常在細菌や常在ウイルスが体内に侵入できず、排除されている状態を示しています。

(右図) 免疫が弱った状態では、常在細菌や常在ウイルスが体内に侵入し様々な病気を引き起こします。

一方で、ウイルスの種類やヒトの健康状態によっては、ウイルス感染の過程で免疫が過剰に活性化されてしまい、感染後数日で症状が劇的に悪化する急性症状を示す場合があります。

また、自分自身の身体を免疫系が誤って攻撃する反応を自己免疫疾患といいます。この自己免疫疾患は、ウイルス感染などが引き金となって発症することも報告されています。特にヘルペスウイルスの一種であるEBウイルスの感染は、様々な自己免疫疾患に関与すると考えられています1)

上記の例のように、異物の侵入・感染後に活性化された免疫細胞などによって異物が除去された直後や、アレルギーなどで自分の細胞に免疫細胞が攻撃しているとき、過剰に活性化された免疫を普段の状態まで一時的に引き下げる作用も免疫調節作用です。これら不適切な免疫の活性を普段の状態まで戻す働きを免疫調節作用といいます(図5-3)。

図5-3 免疫調節作用

免疫系の異常抑制を活性化して正常な免疫系へ調節し、免疫系の異常促進を抑制して正常な免疫系へと調節する働き。

5-3 フコイダンによる免疫調節作用

免疫調節作用についての研究は、食品分野の中でも特に乳酸菌や食物繊維において活発に進められています。しかし、免疫調節作用のメカニズムについては明らかになっていないことが多く、分かっている範囲では、(1)T細胞分化誘導、(2)サイトカイン調節、(3)抗体産生の制御、(4)NK細胞活性化、を適切にコントロールすることで免疫を普段の状態に保つと考えられています2)。食物繊維の一種であるフコイダンと免疫との関連についてはまだ研究が十分ではありませんが、ウイルス感染による炎症の抑制作用が報告されています3)。当社はフコイダンの免疫調節効果についての研究をさらに探求してゆく所存です。

報告⑧:フコイダンがマウスのマクロファージの受容体と肝炎ウイルス(MHV)の結合を阻害することで、ウイルス感染後に免疫系がウイルス感染していない肝細胞まで過剰に攻撃することで生じる劇症肝炎を抑制し補体の活性化を阻害することが報告されています3)

詳細はこちら

5-3-1 肝炎ウイルスにおけるフコイダンの免疫調節作用3)

【報告⑧】3)

<背景と目的>

マクロファージのスカベンジャー受容体(SR-A)は、主に骨髄細胞に発現する受容体であり、免疫恒常性の維持に重要な役割を果たします。SR-Aの発現は劇症肝炎(FH)患者の肝臓で応答が増大されたため、FHの病因におけるSR-Aの機能メカニズムを研究しました。

<方法>

SR-A欠損マウスとその野生型の子供をマウス肝炎ウイルスの一種MHV-A59に感染させて、FH、組織損傷の状態、血清アラニンアミノトランスフェラーゼ、炎症性サイトカインと補体(C5a)を測定し、比較しました。 好中球枯渇を伴うまたは伴わないMHV感染後に肝障害を研究しました。

<結果>

結果では、SR-A欠損マウスがMHV誘発性肝炎に耐性があることを示しました。 C5aRaによる治療は、MHVに感染した野生型マウスとSR-Aマウスの間の炎症反応と肝障害の違いを減少させ、C5a誘発性の炎症誘発性反応がSR-Aを介したFH病因の調節に重要な役割を果たすことを示唆しています。SR-Aは、MHV刺激により、好中球におけるTGF活性化キナーゼ1のリン酸化を効率的に増強し、それによって細胞外シグナル調節キナーゼ経路の活性化とそれに続くNETosis(免疫反応のひとつで好中球細胞外トラップによって引き起こされる細胞死)形成を促進することを示しました。さらに、SR-Aの遮断がMHV感染によって引き起こされる肝障害を軽減したという証拠を提供しました。

<結論>

SR-Aは、NETosisの誘導とそれに続く補体活性化を増強することにより、ウイルス誘導FHの病因を促進します。SR-Aを標的とすることは、FHの新しい免疫療法戦略として採用される可能性があります。

<要約>

FHは世界中で高い死亡率を示す疾患です。FH患者およびマウス実験FHの肝臓におけるSR-Aのレベルの上昇は、SR-AがFHの病因に役割を果たすことを示した。ここでは、SR-A欠損マウスはMHVによって誘導されるFHに耐性があり、SR-A阻害剤であるフコイダンはマウスのFHの進行を抑制することを示しています。著者らの研究は、SR-A機能を阻害する薬剤の使用がFHの患者に有益である可能性があることを示唆しています。

  実験の内容 フコイダンの種類 結果 予想される効果・メカニズム
【報告⑧】3)
マクロファージの受容体と肝炎ウイルス(MHV)の結合を阻害
免疫染色、フローサイトメトリー ヒバマタ 劇症肝炎と劇症肝不全におけるSR-Aの関与を確認、SR-Aの欠損がMHV感染への耐性を引き起した。 ヒト劇症肝炎および劇症肝不全のモデルマウスにおけるSR-Aの応答の増大
リアルタイム-PCR、免疫染色、ELISA、ウェスタンブロット SR-Aは、MHV感染に応答して血液凝固および補体の活性化を促進した。 SR-AがMHV感染後の免疫応答を促進
蛍光観察、HE染色 野生型マウスに比べて、SR-A欠損マウスで好中球によるNETosisと好中球エラスターゼの低下を確認した。 SR-AはMHV感染で好中球によるNETosisと好中球エラスターゼの放出を促進
免疫染色、蛍光観察 SR-AはMHV感染により好中球のリン酸化酵素の一種であるTAK1-ERK経路で調節された NETosisを増強した。 SR-AはMHV感染時の好中球のリン酸化反応を調節することでNETosisを増強
血液検査、蛍光観察 SR-Aの欠損は、MHVによって誘発されるFHを改善し、補体の活性化を阻害した。 フコイダンはMHV感染の生存率の向上とFHの進行阻害する

(引用文献)

  • 1) PNAS. 2015 Sep;112(37):11612-11617
  • 2) 八村敏志. 2007 Jpn. J. Lactic Acid Bact. 18(2) 54-57.
  • 3) J Hepatol. 2018 Apr;68(4):733-743. doi: 10.1016/j.jhep.2017.11.010. Epub 2017 Nov 14.
制作: 海産物のきむらや 主席研究員 舟越稔
同:   課長 阿部直
同: 技術顧問 鳥取大学名誉教授 笠木健
同: 技術顧問 鳥取大学名誉教授 池田匡

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海産物のきむらや開発研究室と鳥取大学、島根大学などとの共同で実施した研究において、抗がん効果、抗がん剤副作用抑制効果をはじめ、高分子もずくフコイダンがもつ生理活性作用についてわかりやすく紹介。

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