山陰中央新報 2014年5月27日 掲載
※これまで報道されてきたフコイダン研究関連のニュースを掲載致します。
高分子の抽出成功
「あの実験がなければ、ここまで深く研究をしていなかったかもしれない」
水産加工品の製造などを手掛ける海産物のきむらや(境港市渡町)の木村隆之社長(64)は、モズクの持つぬめりの主成分「フコイダン」の研究を始めた1996年当時を顧みる。
同社は72年、モズクの行商からスタート。塩漬けされたモズクをビニール袋に詰めて売り歩いたのがルーツだ。
その中で、沖縄県の伊平屋村漁協で良質なモズクと出会い、仕入に成功。一方で販路開拓に取り組み、大口の堺市の大阪いずみ市民生活協同組合への納品が実現した。
O157が転機に
転機が訪れたのは96年。同市で病原性大腸菌O157の集団食中毒が発生した。
同市は、取引先のいずみ市民生協の管轄地域。モズク製品に「もしO157が入ったらどうなる」との懸念から、O157を混ぜて安全性の実験を行うことにした。
しかし、食品と菌の関係の共同研究を行っていた島根大学に実験を依頼すると、当初は学生から「そんな危険なものを扱うことはできない」と反発を受けたという。
根気よく話し合い理解してもらった。実験では予想外の結果が出た。
抗生物質を投与しても、O157は死滅するまでにベロ毒素を大量に排出するが、モズク製品に入れた場合は出なかった。
最初は、調味液に含まれる酢の抗菌作用と思われた。さらに研究を進めると、調味液単体より、モズクが入っている方が早く死滅することから、含まれる多糖類のフコイダンの影響と分かった。
周囲から「自社製品を使った実験なんてあり得ない」と驚かれた当時の決断に、木村社長は「いろいろやってみることが新たな発見につながる」と胸を張る。以降、フコイダン研究を加速。胃がん細胞に対する抗がん作用や、抗がん剤の副作用への抑制効果を発見するなど、これまで、関連の特許を8件取得した。
ろ過技術を確立
さらに分子量が大きくなるほど、粘性が増して抽出するのが難しくなるフコイダンの難点を乗り越えるため、ろ過技術を約3年かけて確立し、抽出精製プラントを開発。
分子量の大きい高分子のフコイダンの抽出が可能になり、2006年、健康食品の製品化にこぎつけた。 昨年から、iPS細胞を使った研究にも着手。フコイダンが与える効果を調べ、社会にどう貢献できるかを模索する。
「世の中や人の役に立つ研究を続けていきたい」と木村社長の探求心は衰えを知らない。
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