鳥取大学医学部と海産物のきむらやとの共同研究によって行った、フコイダンの生理活性についての論文が、このたび国際的ながん研究の学術誌『Oncology Letters(腫瘍学・短報)』第2巻、2011年3-4月号に掲載された1)。内容は、制がん剤の副作用をフコイダンが軽減させる効果を、大腸がん患者を対象とした臨床試験で検証したものである。
フコイダンの制がん剤副作用軽減効果について世界初の臨床試験を実施
現在、進行性・再発性の大腸がんに対して制がん剤による治療を行う場合、FOLFOX①、もしくはFOLFIRI②という、複数の制がん剤を使用する方法が一般的になっている。この方法は、がんに対して高い治療効果をもたらすと同時に、倦怠感をはじめとした、さまざまな激しい副作用を引き起こすことで知られている。
一方、ヒト培養細胞③を用いた基礎研究では、フコイダンに「制がん剤により正常細胞が死滅することを防ぐ」効果があることが確認されている2)。このことは、制がん剤による治療中の副作用を抑えるという、フコイダンがもつ可能性を示している。そこで実際にがん患者に対して、フコイダンが制がん剤の副作用を抑える効果があるかどうか、臨床試験④によって検証を行った。
制がん剤の処方サイクルの増加、副作用の軽減効果を確認
大腸がん患者20人に対して6か月間、制がん剤による治療を行った。フコイダン投与対象者を10人、投与非対象者を10人とし、投与対象者には制がん剤治療を開始した日から毎日、フコイダンの投与を行った。
その結果、フコイダン投与対象者は、制がん剤処方のサイクル⑤の平均値が19.9サイクルであったのに対し、投与非対象者は10.8サイクルであった。投与対象者の方が、明らかに制がん剤の処方サイクルが多かった。さらに、制がん剤による治療期間中に見られた副作用で、Grade 2⑥の倦怠感を示したフコイダン投与非対象者は10人中6人であったのに対し、フコイダン投与対象者については、10人中わずか1人であった。統計上、明らかにフコイダン投与対象者の倦怠感を軽減することが確認された。
生存率の上昇も―広がる可能性
その後、患者の治療を15か月続けたが、フコイダン投与対象者2人、投与非対象者4人の合計6人の患者が亡くなった(図)。フコイダン投与対象者の方が、フコイダン投与非対象者より生存率が高いが、統計上で十分な差異があると判断するためには、研究をさらに進める必要がある。
以上の検証から、フコイダンには、「制がん剤治療を行っている大腸がん患者の倦怠感を抑える」効果があるとともに、「制がん剤を処方するサイクル数を増やすことができる」ことが確認された。本研究で用いたフコイダンは、沖縄もずくから抽出した海産物のきむらや製の高分子もずくフコイダンである。
【出典】 1)Ikeguchi M et al Fucoidan reduces the toxicities of chemotherapy for patients with unresectable advanced or recurrent colorectal cancer(フコイダンによる制がん剤の副作用軽減効果)Oncology Letters 2(2), 319-322 (2011)
2)Kawamoto H et al Effects of Fucoidan from Mozuku on Human Stomach Cell Lines(もずくフコイダンのヒト胃細胞への影響) Food Sci Technol Res 12(3),218-222(2006)
- 用語解説
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①FOLFOX(フォルフォックス)/制がん剤を処方するひとつの方法。オキサリプラチンと5-フルオロウラシルの2種類の制がん剤と、ロイコボリンという5-フルオロウラシルの働きを高める薬剤を同時に投与する。
②FOLFIRI(フォルフィリ)/制がん剤を処方するひとつの方法。イリノテカン、5‐フルオロウラシルの2種類の制がん剤と、ロイコボリンという5-フルオロウラシルの働きを高める薬剤を同時に投与する。
③培養細胞/人為的に生体外で培養されている細胞。基礎研究分野、とくに分子生物学、生化学、細胞生物学の分野で頻繁に使われる。
④臨床試験/医薬品や医療機器を実際に患者や健常者に投与、使用し、安全性と有効性を確認する試験のこと。基礎研究や動物実験など、十分な検証を経た後に行われる。試験を受ける患者、健常者は、事前に十分な説明を受けるが、プライバシーについても十分な配慮がなされる。
⑤制がん剤処方のサイクル/FOLFOXまたはFOLFIRIの処方に従い、点滴静脈注射にて制がん剤と薬剤を投与し、2週間、経過を観察する。これを1サイクルとする。激しい、もしくは継続的な毒性(副作用)が現れた場合は、薬剤濃度を下げるか、次のサイクルの開始を中断する。
⑥Grade 2/有害事象の程度を表す。有害事象とは、薬の使用者に生じた好ましくない事象のこと。症状の程度は、アメリカ国立がん研究所による「有害事象共通用語規準」として統一されており、Grade 0の「正常」から「有害事象による死亡」のGrade 5まで、重症度に応じて6段階に分かれている。Grade 2は、「中程度の有害事象。最低限の治療、局所的治療 または非侵襲的治療(肉体の通常の状況を乱さない程度の治療)を要する」と定義されている。
動画資料
分かりやすいフコイダン研究のご紹介「海産物のきむらや~もずくの神秘に挑む~」は、
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海産物のきむらや開発研究室と鳥取大学、島根大学などとの共同で実施した研究において、抗がん効果、抗がん剤副作用抑制効果をはじめ、高分子もずくフコイダンがもつ生理活性作用についてわかりやすく紹介。