鳥取大学医学部と海産物のきむらやとの共同研究で行ったフコイダンの生理作用についての論文が、医学系の学術誌『米子医学雑誌』(米子医学会刊)第61巻4・5号、2010年9月号に掲載された1)。概要は、フコイダンが便性状や便通に与える影響を、腹部症状に自覚症状をもつ成人男女を対象とした臨床試験で検討したものである。
腸内環境が整い、排便日数が増加
ヒトの腸内には約100兆個の微生物が生息している。これらの腸内細菌①が食品中で吸収されなかった成分を分解し、分解物を栄養源にしてさまざまな物質を合成することで腸内における多様な生態系を形勢している。この腸内細菌のバランスが何らかの要因で崩れることで体質が変わり、疾病リスクが高まる一因となることが考えられている。さらに、腸内細菌がヒトの腸管粘膜②と相互作用することで、最も大きな免疫系である腸管免疫③が適切にコントロールされている。
一方、おなかの不調である便秘や下痢は、病的な状態を自覚することは少ないものの、多くのヒトを悩ます代表的な腹部症状の一つである。この症状に対する抑制・沈静をする方法は数多くあるが、症状を示さないように体質を改善することは容易ではない。
そこで鳥取大学医学部保健学科と海産物のきむらやは、高分子もずくフコイダンが便通または腹部状態に何らかの不調を訴える成人男女の便通に与える影響を排便日数、排便回数、排便量、便性状(色、形状、におい)から比較検討した。
まず試験参加者を2群に分け、フコイダンを摂取する期間とプラセボ④を摂取する期間を交互に2週間ずつ、さらに間にどちらも摂取しない期間を挟んでクロスオーバー試験⑤を行った。
その結果、フコイダンの摂取期間において排便日数の増加がみられた。また便性状の変化から、腸内細菌の変化が示唆された。
便臭において酸臭が増加
さらに詳しく解析すると、便通と便形状の結果からプラセボとは異なり、フコイダン摂取により総排便量を減少させずに糞便が硬化する傾向がみられた。この結果から、フコイダンが食物繊維⑥として便秘傾向な人に作用するだけでなく、習慣的に下痢の症状を繰り返す人に対してフコイダンが排便回数の抑制と便形状の硬化により下痢の症状緩和に関与する傾向がみられた。
腸内環境の変化については、フコイダン摂取により便臭において酸臭の有意な増加がみられた。この酸臭の増加の原因としては腸内細菌叢の変化による短鎖脂肪酸⑦の増加が考えられた。この短鎖脂肪酸とは腸内を弱酸性の環境にすることで有害な菌の増殖を抑制する、大腸の粘膜を刺激して蠕動運動を促進する、ヒトの免疫反応を制御する、など様々な機能があることが知られている。
【出典】 1)阿部直ら モズク由来フコイダンが便性状・便通に及ぼす作用の検討 米子医学雑誌 61(4・5), 122-128(2010)
- 用語解説
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①腸内細菌/ヒトや動物の腸の内部に生息する細菌の総称。ヒトの腸内には100種類以上、100兆個以上の腸内細菌が生息しており、糞便のうち約半分が腸内細菌またはその死骸であると言われている。
②腸管粘膜/消化に特化した器官。例えば胃では強酸性に接したり、小腸では多くの異なる物質を吸収したり、大腸では大量の水を吸収したりしている。
③腸管免疫/食物や微生物などの異物を排除するための小腸における免疫。また腸内細菌も腸管免疫の活性化に深く関与している。
④プラセボ/臨床試験などで用いられる偽の薬。暗示による影響を評価するための比較として使用される。
⑤クロスオーバー試験/2つの異なる試験条件を試験途中で交代する試験方法。
⑥食物繊維/ヒトが消化できない食品の総称。主に植物や藻類の炭水化物。
⑦短鎖脂肪酸/炭素数が少ない脂肪酸の総称。一部の細菌が生産する。
動画資料
分かりやすいフコイダン研究のご紹介「海産物のきむらや~もずくの神秘に挑む~」は、
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海産物のきむらや開発研究室と鳥取大学、島根大学などとの共同で実施した研究において、抗がん効果、抗がん剤副作用抑制効果をはじめ、高分子もずくフコイダンがもつ生理活性作用についてわかりやすく紹介。