一般財団法人 北里環境科学センター①と海産物のきむらやは共同研究を実施し、もずくより抽出されたフコイダンにA型インフルエンザウイルス②に対する抑制作用があることを確認し、2015年1月に報道機関への公表を行った。以下、その試験管レベルでの実験内容について概説する。
培養細胞を用いて、インフルエンザウイルスの抑制作用を検証
インフルエンザは、インフルエンザウイルスの感染により引き起こされる急性の呼吸器感染症である。冬季を中心に世界各地で流行が発生し、日本では、例年約1000万人が罹患していると推定されている。
インフルエンザ発症までのメカニズムを簡単に説明すると、体内に取り込まれたインフルエンザウイルスは、細胞に付着し、侵入する。そして細胞内で、ウイルスの遺伝子などの材料が活発に複製され、遂には細胞外へとウイルスが放出される。このサイクルが繰り返されることにより、体内にインフルエンザウイルスが増殖して発症する。
インフルエンザ治療薬として知られる「タミフル」は、ウイルスの細胞外への放出を阻止する働きをして増殖を抑え、感染症の症状悪化を抑制しているのである。
共同研究では、インフルエンザ治療薬「タミフル」と同じように、フコイダンにもインフルエンザウイルスを抑制する効果があるかどうか調べた。
試験では、A型インフルエンザウイルスを感染させた培養細胞MDCK③を、フコイダンを加えた「プラーク形成培地」の中で培養。このとき、フコイダンの濃度が異なる培地をそれぞれ用意した。
2日後、インフルエンザウイルスに感染して死んだ細胞の跡プラーク④を計測したところ、フコイダンの濃度が高くなるにつれてプラークの形成が抑制され、阻害率が高まっていることがわかった(図)。つまりフコイダンにより、インフルエンザウイルス感染による細胞の死滅が抑えられており、ウイルスの増殖が抑制されていることが確認されたのである。
抑制作用のメカニズムを解明し、医薬品開発も視野に
今後も、北里環境科学センターと共同研究を継続し、フコイダンがインフルエンザウイルスに対して、細胞への付着を阻害しているのか、ウイルスの増殖を阻害しているのかなど、抑制作用の詳細な仕組みを調べていく予定である。
- 用語解説
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①一般財団法人 北里環境科学センター/神奈川県相模原市にある、衛生に関する研究、相談、技術指導等を行っている研究機関。北里大学衛生学部環境衛生研究センターを母体としており、1977年に発足。北里大学が擁する幅広い領域の専門家と協力しており、高度な専門知識と技術を有していることが特色である。
②A型インフルエンザウイルス/直径が1万分の1ミリ程度の球状の構造をした、ヒトに感染してインフルエンザを引き起こすウイルス。インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型の3種があり、中でもA型は突然変異をしやすく、性質が変化して新型インフルエンザとなり、世界的なパンデミック(大流行)を引き起こすことがある。1918年のスペインかぜの大流行、2009年の新型インフルエンザの流行は、この仲間のインフルエンザが原因であった。
③培養細胞MDCK/イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の細胞株。インフルエンザウイルスを増殖させる能力があるためにインフルエンザウイルス研究に用いられる。また、ヒトとの消化管吸収率との相関性が認められていることから、薬物の膜透過性の研究にも用いられている。
④プラーク/プラーク形成培地を用いて細胞を培養した際、ウイルスに感染した細胞が死滅し、円形の領域ができる。細胞を染色すると、その部分だけが比較的透明となり区別できる。この領域をプラーク(溶菌斑)という。
動画資料
分かりやすいフコイダン研究のご紹介「海産物のきむらや~もずくの神秘に挑む~」は、
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海産物のきむらや開発研究室と鳥取大学、島根大学などとの共同で実施した研究において、抗がん効果、抗がん剤副作用抑制効果をはじめ、高分子もずくフコイダンがもつ生理活性作用についてわかりやすく紹介。