2010年7月に東京で行われた第24回「キチン・キトサンシンポジウム」にて、動物実験でのフコイダン経口投与による抗腫瘍効果について鳥取大学農学部獣医学科の研究グループが発表した1)。以下にその内容を概説する。
マウスにフコイダンを経口投与し、抗腫瘍効果を検証
フコイダンの抗腫瘍効果については多くがin vitro①においての研究であり、in vivo②においては腹腔③内あるいは静脈内投与、腫瘍組織への局所投与による効果の報告である。経口投与による抗腫瘍効果の報告はきわめて少ないのが実情である。
そこで、鳥取大学農学部獣医学科と海産物のきむらやは共同研究で、担がん④マウスにフコイダンを経口投与することにより、腫瘍生長、免疫細胞およびサイトカイン⑤産生、担がんマウスの生存日数、に及ぼす影響を検証した。
フコイダン5%添加飼料を4週間給餌したマウスに、培養したマウス結腸がん由来細胞の腫瘍片を移植した。なお、フコイダン添加飼料の給餌は、移植後も継続して行った。移植後2週間目に腫瘍重量を測定後、腫瘍組織の組織学的観察を行った。フコイダンを給餌した群において、腫瘍生長率、重量ともにフコイダンを添加しない通常飼料の群と比較して抑制された。
また、マウスにフコイダンを10週間経口投与し、血液および脾臓を採取した。血清からはサイトカイン濃度を、脾臓細胞から免疫細胞の割合を測定した。フコイダン投与群は血清サイトカイン濃度(IL-2⑥)が上昇した。脾細胞の解析では、NK細胞⑦率の増加、CD4⑧陽性率の減少が確認された。
マウス実験から延命効果も明らかに
さらに担がんマウスにフコイダン5%添加飼料を持続給餌し、生存日数を検討した。フコイダンを経口投与した群の生存日数は、フコイダンを添加しない通常飼料群より、約2倍延長した(図)。
フコイダンは、経口投与によって抗腫瘍効果を発揮することが今回の研究で明らかとなった2)。この効果は、細胞分裂抑制、アポトーシス⑨誘導、免疫細胞賦活などの効果が複合的に働くことで発揮される可能性が示唆された。またフコイダンを経口投与することにより、明らかに担がんマウスの生存日数が延長することが明らかとなった。
【出典】 1)岡本芳晴ら フコイダン経口投与による抗腫瘍効果 キチン・キトサン研究 16(2),150-151(2010)
2) 抗腫瘍作用を有するフコイダン 特許公開公報,WO 2010/110223(2010)
- 用語解説
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①in vitro/試験管内など人為的に構成された実験環境。分野によって異なるが、容器内での培養細胞実験などもこれに該当する。
②in vivo/「生体内で」の意味でin vitroと対比でこの表現が使われる。培養細胞と対比して、動物などでの実験を意味する。
③腹腔/横隔膜より下部の胃や腸などの臓器が収まっている空間。
④担がん/体内にがんを持っていること。
⑤サイトカイン/免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で特定の細胞に情報を伝える役割がある。多くの種類があり、炎症、細胞増殖などに関係するのもがある。
⑥IL-2/インターロイキン-2の略称でサイトカインの一つ。免疫で異物を除去する細胞や抗体をつくる細胞に働きかける。
⑦NK細胞/リンパ球の一種であり特に腫瘍細胞やウイルス感染した細胞を攻撃する役割をもつ細胞。
⑧CD4/血液中の白血球の一つで、リンパ球でウイルスに感染した細胞やがん細胞などを破壊する機能をもつ細胞。免疫作用で異物や必要のない細胞を攻撃する細胞。
⑨アポトーシス/個体の状態を良い状態に保つため管理・調節された細胞の自殺、つまりプログラムされた細胞死のこと。
動画資料
分かりやすいフコイダン研究のご紹介「海産物のきむらや~もずくの神秘に挑む~」は、
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海産物のきむらや開発研究室と鳥取大学、島根大学などとの共同で実施した研究において、抗がん効果、抗がん剤副作用抑制効果をはじめ、高分子もずくフコイダンがもつ生理活性作用についてわかりやすく紹介。