2010年のグルコサミン研究会発行の学術雑誌『グルコサミン研究Vol.6』において、関節軟骨の損傷治癒促進効果に、海藻であるもずくから抽出されるフコイダンが有用であることを、鳥取大学農学部獣医学科の研究グループが発表した1)。以下に、その内容を概説する。
硫酸基をもつ物質の変形性関節症への効果を予測
ヒトの変形性関節症(OA)は、軟骨組織の加齢に伴う合成能の低下、もしくは過度な運動による機械的な磨耗の結果として発症することが知られている。現在関節軟骨の損傷を伴う疾患に対する処置は、非ステロイド性抗炎症薬①やステロイドによる内科的治療、外科的処置②、サプリメントの投与などが行われている。その中でグルコサミン・コンドロイチン硫酸③の研究結果から、OAの予防・治療に硫酸基をもつ物質が関与する可能性が考えられた。
そこで、鳥取大学農学部獣医学科と海産物のきむらやは、共同研究で硫酸化多糖類であるもずく由来フコイダンの軟骨損傷の治癒促進効果を検証した。
イエウサギに対する軟骨治癒促進効果を検証
軟骨損傷の治癒促進効果を検討するため、大腿骨④に3か所の損傷孔を作成したイエウサギ24羽を任意に分け、フコイダンを飲料水に溶かして3週間経口投与した(フコイダン摂取群)。フコイダン非摂取群については、水道水を自由飲水させた。
実験終了後、損傷部位の修復度を実験開始時と肉眼観察で比較して点数化した。さらにヘマトキシリン・エオジン染色、サフラニン-O(SO)染色、アルシアンブルー(AB)染色で処理した切片を画像解析⑤した。
修復度は、フコイダン非摂取群が1.1点だったのに対し、フコイダン摂取群では1.78点であった。組織学的には、コントロールの損傷部位は膠原線維⑥、線維芽細胞⑦などで充填されていたのに対し、フコイダン摂取群の損傷部位は軟骨芽細胞、軟骨細胞で構成されていた。
AB染色、SO染色の切片の画像解析ではフコイダン非摂取群が5989ピクセル、2018ピクセルであったのに対して、フコイダン摂取群では2万7175ピクセル、2万9474ピクセルであった。
フコイダン摂取群には、明らかにグリコサミノグリカン⑧およびプロテオグリカン⑨の再生を伴う軟骨治癒促進効果が見られたのである。
フコイダンの軟骨再生促進作用 (滑車溝遠位 AB染色)
※青色部分が軟骨再生部分
コントロールの損傷部位における組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色標本)
損傷部位における関節軟骨層、海綿骨表層および深層に軟骨および海綿骨の再生像は認められない。
F330(分子量33万のフコイダン)の損傷部位における組織像(サフラニン-O(SO)染色標本)
関節軟骨層、海綿骨表層および深層に軟骨組織の再生像が認められる。骨梁の再生は認められない。
鳥取大学農学部獣医学科南教授より提供
【出典】1)北原康大ら もずく由来フコイダンの実験的関節軟骨損傷に対する効果について グルコサミン研究 6, 37-43(2010)
- 用語解説
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①非ステロイド性抗炎症薬/アスピリンのようなステロイドではない抗炎症薬のこと。疼痛・発熱・炎症の治療に用いられる。
②外科的処置/変形・断裂した関節の部分切除手術や人工関節への置換手術のこと。
③グルコサミン・コンドロイチン硫酸/カニやエビなどの殻に多く含まれる物質。
④大腿骨/哺乳類において最も長くて体積がある、股から膝の間を構成する骨。
⑤画像解析/損傷孔の200倍の組織写真から20,000ピクセルの範囲を無作為に選択し、画像解析ソフトでその範囲の軟骨基質のピクセル数を計測すること。
⑥膠原線維/コラーゲンが寄り集まって形成された線維。光学顕微鏡で観察することができる。
⑦線維芽細胞/体内の組織や器官の間隙を埋める結合組織を構成する細胞の一つ。組織が損傷した場合にコラーゲンなどをつくり修復を補助する働きをもつ。
⑧グリコサミノグリカン/動物の結合組織を中心にあらゆる組織に存在するムコ多糖類。AB染色により青藍色に染色される。
⑨プロテオグリカン/多くの糖鎖が結合した糖タンパク質の一種。コラーゲン等の繊維質タンパク質と複合体を形成する。SO染色により赤紫色に染色される。
動画資料
分かりやすいフコイダン研究のご紹介「海産物のきむらや~もずくの神秘に挑む~」は、
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海産物のきむらや開発研究室と鳥取大学、島根大学などとの共同で実施した研究において、抗がん効果、抗がん剤副作用抑制効果をはじめ、高分子もずくフコイダンがもつ生理活性作用についてわかりやすく紹介。